ファクタリング審査の裏側。元銀行員が分析する「審査で担当者は何を見ているか」
3ヶ月後の資金繰りに、漠然とした不安を感じていませんか?
「銀行に追加融資を断られた…」「入金サイクルが長く、手元の現金が足りない…」
そんな状況でファクタリングを検討し始めたものの、「うちの会社でも審査に通るのだろうか?」という新たな壁に突き当たっている経営者の方は、決して少なくありません。
銀行の厳しい審査を経験した方ほど、ファクタリングの審査にも身構えてしまうお気持ちは、痛いほどよく分かります。
書類の山を前に、「この決算書では、またダメかもしれない…」と、過去の苦い記憶が蘇ることもあるでしょう。
結論から申し上げます。
ファクタリングの審査は、銀行融資のそれとは全くの別物です。
審査の担当者が見ているのは、あなたの会社の「過去の成績表」ではありません。
彼らが見ているのは、あなたの会社が持つ「未来の入金予定」、つまり「売掛先の信用力」なのです。
はじめまして。
元メガバンクの法人融資担当で、現在は資金調達コンサルタントとして100社以上の企業様をご支援している、結城 誠と申します。
銀行員時代、私は「黒字なのに倒産寸前」という中小企業を何社も見てきました。
素晴らしい技術やサービスを持ち、優良な取引先からの売掛金も豊富にある。
しかし、制度の壁によって融資ができず、目の前で成長の機会を逃していく企業を救えなかった悔しさは、今でも鮮明に覚えています。
その原体験から独立し、ファクタリングという手法に出会ったとき、私はその可能性に衝撃を受けました。
これは、過去の数字だけでは測れない企業の「今」の価値を正当に評価し、未来へ繋ぐための強力な追い風になり得る、と。
この記事は、単なる審査のノウハウを解説するものではありません。
銀行の「表」とファクタリングの「裏」を知り尽くした私が、あなたの会社の資金繰りという航海を成功に導くための羅針盤となるべく、魂を込めて執筆します。
この記事を読み終えたとき、あなたはファクタリング審査への漠然とした不安から解放され、「次に何をすべきか」が明確な地図として手に入っていることをお約束します。
なぜ銀行融資とファクタリングの審査は全く違うのか?元銀行員が語る根本的な思想の違い
多くの経営者が、ファクタリングの審査を銀行融資の延長線上で考えてしまいがちです。
しかし、これは全くの誤解です。
両者の審査は、見ている方向、評価する時間軸、そして根底にある思想そのものが180度異なります。
銀行融資の審査:「過去」と「未来の返済能力」を問う“減点法”
銀行員時代の私が審査で見ていたのは、申込企業の「過去の財務状況」と「未来の返済能力」でした。
具体的には、過去数年分の決算書を徹底的に分析し、赤字はないか、債務超過に陥っていないか、税金の滞納はないかなどを厳しくチェックします。
これは、貸したお金を将来にわたって安定的に返済してもらえるかを判断するための、いわば“減点法”の審査です。
どんなに素晴らしい事業計画があっても、過去の決算書に一つでも大きなマイナスポイントがあれば、融資のテーブルに乗せることすら難しいのが現実でした。
銀行は、あなたの会社の「過去」を問い、その延長線上に「未来」の返済能力があるかを評価するのです。
ファクタリングの審査:「現在」の売掛債権の価値を問う“加点法”
一方、ファクタリングの審査は全く異なります。
ファクタリングは「融資(借金)」ではなく、「売掛債権(未来に入金される権利)の売却」という取引です。
そのため、ファクタリング会社が最も重視するのは、あなたの会社のことではありません。
彼らが知りたいのはただ一つ、「その売掛金は、期日通りに支払われるのか?」ということです。
つまり、審査の主役は、あなたの会社ではなく「売掛先」なのです。
あなたの会社の過去の決算が赤字であろうと、銀行からの借入があろうと、売掛先が国や上場企業のような信用力の高い会社であれば、それは「価値の高い債権」として評価されます。
これは、申込企業の状況をベースに課題を探すのではなく、売掛債権の価値を見出す“加点法”の審査と言えるでしょう。
この違いが、赤字や税金滞納でも利用できる理由
この根本的な思想の違いこそが、銀行融資を断られた企業でもファクタリングを利用できる最大の理由です。
銀行融資:申込企業の返済能力が問われるため、赤字決算や税金滞納は致命的。
ファクタリング:売掛先の支払能力が問われるため、自社が赤字でも、信用力の高い売掛債権があれば利用できる可能性が高い。
資金繰りの航海において、銀行融資が「船(あなたの会社)そのものの強度や性能」を問うものだとすれば、ファクタリングは「目的地(売掛先)の確かさ」を問うもの。
どちらが良い悪いではなく、全く別の航海術なのです。
この違いを理解することが、ファクタリング審査を攻略する第一歩となります。
【審査の裏側】ファクタリング会社が本当に見ている3つの重要ポイント
では、ファクタリング会社の担当者は、具体的に何を見て「この売掛債権は買い取れる」と判断しているのでしょうか。
元銀行員として、そして数多くのファクタリング会社と交渉してきたコンサルタントとして、彼らが最も重視する3つのポイントを、その裏側まで踏み込んで解説します。
ポイント1:売掛先の信用力(最重要)
これだけは絶対に覚えておいてください。 ファクタリング審査の成否の8割は、売掛先の信用力で決まります。
担当者は、あなたの会社から提出された情報だけでなく、専門的なデータベースを駆使して売掛先の「支払い能力」を徹底的に調査します。
- 信用調査会社の情報
帝国データバンクや東京商工リサーチといった信用調査会社のレポートは、最も重要な判断材料の一つです。 企業の業績、財務状況、過去の支払い遅延の有無などがスコアリングされており、この評価が低いと審査は非常に厳しくなります。 - 会社規模や業種
一般的に、官公庁、上場企業、またはそれに準ずる大企業は信用力が高いと判断されます。 逆に、設立間もない企業や、経営実態が不透明な企業、そして個人事業主への売掛債権は、買い取りを断られるケースが多いのが実情です。 - 業界の評判やニュース
担当者は、業界内の評判やネガティブなニュースにもアンテナを張っています。たとえ今は経営が安定していても、将来的に業績が悪化するリスクがないかを多角的に分析しているのです。
元銀行員の視点
銀行員時代も取引先の信用力は当然見ていましたが、それはあくまで「融資先が連鎖倒産しないか」というリスク管理の一環でした。しかしファクタリング会社にとって、売掛先の信用力はリスクではなく「商品価値そのもの」。見る目の厳しさ、深さは銀行の比ではありません。
ポイント2:売掛債権の存在と内容の信憑性
次に担当者が見るのは、「その売掛債権が、本当に存在する確かなものか」という点です。
残念ながら、架空の請求書で資金を調達しようとする詐欺行為も存在するため、ここは非常に厳しくチェックされます。
担当者は、以下の書類から取引の「実在性」をパズルのように組み上げていきます。
- 請求書、発注書、納品書
請求書はもちろんのこと、その取引の根拠となる発注書や納品書も重要な証拠となります。 書類に記載された金額、日付、取引内容に矛盾がないかを確認します。 - 売掛先との基本契約書
継続的な取引がある場合、基本契約書の提出を求められます。 これにより、その取引が単発のものではなく、安定した関係性に基づいていることを証明できます。 - 過去の入金履歴がわかる通帳のコピー
これが非常に重要です。 過去に同じ売掛先から、請求書通りの金額が期日通りに入金されている実績があれば、債権の信憑性は飛躍的に高まります。逆に、取引実績が全くない新規の売掛先だと、慎重に判断される傾向があります。
ポイント3:申込企業の信頼性
「申込企業は関係ないのでは?」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
特に、利用者とファクタリング会社の2社間で行う「2者間ファクタリング」の場合、申込企業の信頼性も重要な判断材料となります。
なぜなら、2者間ファクタリングでは、売掛先からの入金は一度あなたの会社の口座に入ります。
そのお金を、速やかにファクタリング会社へ支払ってもらわなければなりません。
担当者は、「この経営者は、入金されたお金を持ち逃げしたりしないだろうか?」というリスクを評価しているのです。
- 経営者の人柄や対応
面談時の受け答えや、質問への回答の誠実さ、提出書類の丁寧さなど、数値化できない部分も意外と見られています。不誠実な態度や、何かを隠しているような言動は、マイナス評価に繋がります。 - 二重譲渡のリスク
一つの売掛債権を複数のファクタリング会社に売却する「二重譲渡」は、犯罪行為です。 担当者は、債権譲渡登記の有無などを確認し、このリスクがないかを慎重に判断します。- 債権譲渡登記とは?
簡単に言うと、「この売掛金を受け取る権利は、正式にうちの会社(ファクタリング会社)に移りましたよ」と法的に公表する手続きのことです。 これを行うことで、他の会社が同じ売掛債権を差し押さえたり、二重に買い取ったりすることを防ぎます。
- 債権譲渡登記とは?
数字は嘘をつきません。しかし、数字だけが会社の全てを語るわけでもありません。
この3つのポイントをしっかり押さえることが、審査通過への最短ルートです。
これは命取り!ファクタリング審査に落ちる企業の典型的な5つのパターン
これまで多くの企業様をご支援する中で、残念ながら審査に通らなかったケースも見てきました。
そこには、いくつかの共通したパターンが存在します。
あなたの会社が同じ轍を踏まないよう、典型的な5つの失敗パターンを共有します。
パターン1:売掛先の信用力が著しく低い
これは最も多い原因です。赤字続きの企業や、設立から日が浅く実績がない企業、あるいは個人事業主を売掛先とする債権は、ほぼ審査に通りません。 どの売掛債権を申し込むか、その「選択」が非常に重要です。
パターン2:売掛債権の存在を証明できない
請求書はあるものの、それを裏付ける契約書や過去の入金履歴が提示できないケースです。 これではファクタリング会社も「本当に存在する取引なのか?」と疑念を抱かざるを得ません。取引の証拠は、できる限り多く揃えるべきです。
パターン3:支払期日(サイト)が長すぎる
一般的に、支払期日までの期間が60日を超えるような長期の売掛債権は敬遠される傾向にあります。 期間が長引くほど、その間に売掛先が倒産するリスクが高まるためです。 複数の売掛債権があるなら、支払期日が短いものから検討しましょう。
パターン4:二重譲渡を疑われる言動
「他のファクタリング会社にも相談しているんですが…」といった発言は、担当者に不要な警戒心を与えかねません。複数の会社を比較検討すること自体は問題ありませんが、一つの債権を同時に複数の会社へ申し込むような行動は、二重譲渡のリスクを疑われ、信頼を失う原因となります。
パターン5:ファクタリング会社への不誠実な対応
担当者からの質問に対して曖昧な返事をしたり、必要書類の提出が遅れたりするなど、対応が不誠実な場合も審査に影響します。 担当者は、あなたのビジネスパートナーになる可能性がある存在です。誠実なコミュニケーションを心がけましょう。
この選択を誤ると、命取りになりかねません。
自社の状況を客観的に見つめ、これらのパターンに陥っていないか、今一度確認してみてください。
審査通過率を劇的に上げる!元銀行員が教える「準備」と「交渉」の技術
ファクタリング審査は、単に書類を提出して結果を待つだけの「試験」ではありません。
適切な「準備」と、担当者を味方につける「交渉」によって、通過率を劇的に高めることが可能です。
ここでは、私がコンサルティングの現場で実践している具体的な技術をお伝えします。
準備編:提出書類は「ラブレター」だと思え
審査に必要な書類は、単なる事務手続きではありません。
あなたの会社の状況と、売掛債権の価値を伝えるための、ファクタリング会社への「ラブレター」です。
ただ揃えるだけでなく、相手(担当者)が読みやすく、理解しやすいように整える「心遣い」が、信頼に繋がります。
【基本の提出書類リスト】
書類の種類 | 目的(担当者は何を見ているか) | 準備のポイント |
---|---|---|
本人確認書類 | 申込者が実在する人物かを確認 | 運転免許証やパスポートなど顔写真付きのものを用意 |
決算書・確定申告書 | 会社の事業規模や継続性を確認 | 直近2〜3期分を求められることが多い |
売掛債権に関する資料 | 取引の実在性と信憑性を証明(最重要) | 請求書だけでなく、契約書、発注書、納品書もセットで |
入出金明細(通帳コピー) | 過去の入金実績と事業の金の流れを確認 | 直近3ヶ月〜6ヶ月分。該当入金箇所に印を付けると親切 |
印鑑証明書・登記簿謄本 | 会社の法人格と代表者の実在性を証明 | 発行から3ヶ月以内のものを用意 |
これらの書類を、ただ漫然と提出するのではなく、「なぜこの書類が必要なのか」という担当者の意図を汲み取り、完璧な状態で提出することが、最初の信頼を勝ち取る鍵となります。
交渉編:担当者を味方につけるコミュニケーション術
担当者は、あなたを審査する「敵」ではありません。
取引が成立すれば、あなたの会社の資金繰りを支える「パートナー」となる存在です。
対等なビジネスパートナーとして、以下の点を意識してコミュニケーションを取りましょう。
- 事業内容を自分の言葉で熱く語る
書類だけでは伝わらない、あなたの事業への情熱や将来のビジョンを語ってください。数字の裏側にあるストーリーを伝えることで、担当者はあなたの会社のファンになり、何とか力になりたいと思ってくれるものです。 - 資金の使途を明確に伝える
「なぜ今、資金が必要なのか」「調達した資金を何に使い、どうやって会社を成長させるのか」を具体的に説明しましょう。前向きで明確な資金使途は、経営者の計画性を示す上で非常に有効です。 - 不利な情報も正直に話す
もし赤字決算や税金滞納といったネガティブな情報がある場合、隠さずに正直に話しましょう。その上で、その原因と今後の改善策をセットで伝えることができれば、むしろ誠実な経営者として信頼を高めることができます。
大切なのは、あなたの会社にとっての“最適解”を共に見つけるパートナーとして、担当者と向き合うことです。
まとめ:審査の不安を乗り越え、次の一歩を踏み出すために
今回は、ファクタリング審査の裏側について、元銀行員という視点から徹底的に解説してきました。
最後に、この記事の重要なポイントを振り返りましょう。
- 銀行融資とファクタリングの審査は別物
銀行は「あなたの会社の過去と未来」を、ファクタリングは「売掛先の現在の信用力」を見ています。 - 審査の最重要ポイントは3つ
- 売掛先の信用力:審査の8割を占める最重要項目。
- 売掛債権の信憑性:取引が実在することを書類で証明する。
- 申込企業の信頼性:特に2者間ファクタリングでは経営者の人柄も重要。
- 準備と交渉が成否を分ける
提出書類は丁寧に整え、担当者とは誠実なコミュニケーションを心がけることで、通過率は大きく向上します。
ファクタリングは、資金繰りの航海における強力な“追い風”になり得ます。
しかし、その風を正しく捉えるためには、正しい知識という羅針盤が不可欠です。
この記事が、あなたの会社の未来を照らす一助となれば、これに勝る喜びはありません。
さあ、不安はもう終わりです。
まずは、自社が保有する売掛金をリストアップし、どの売掛先が最も信用力が高いかを確認することから始めてみましょう。
それが、あなたの会社が未来へ向けて踏み出す、具体的で力強い「はじめの一歩」です。