3ヶ月後の資金繰りに、漠然とした不安を感じていませんか。
手元には確かな売掛債権があるにもかかわらず、取引先との契約書に記載された「債権譲渡禁止特約」の一文を見て、「ファクタリングは利用できない」と諦めてしまった経験はございませんか。
結論から申し上げます。
その“壁”は、2020年4月1日に施行された改正民法によって、すでに取り払われています。
これは、あなたの会社の資金繰りを劇的に改善する、非常に重要な変化です。
しかし、この法改正の恩恵を最大限に享受するためには、いくつかの注意点を正確に理解しておく必要があります。
こんにちは。
元銀行員の資金調達コンサルタント、結城 誠です。
メガバンクの融資担当として、多くの有望な中小企業が「書類の壁」によって資金調達を阻まれる現実を目の当たりにしてきました。
その経験から、私は「経営者に寄り添った、柔軟で迅速な選択肢」の必要性を痛感し、現在はファクタリングをはじめとする多様な資金調達の専門家として、100社以上の企業様をご支援しています。
この記事では、単なる法律の解説に留まりません。
元銀行員としての視点と、数々の現場で培ったコンサルタントとしての知見を基に、今回の民法改正があなたの会社の「未来」にどのような影響を与えるのか、そして、この変化をどうすれば“追い風”に変えられるのかを、どこよりも分かりやすくお伝えすることをお約束します。
目次
結論から申し上げます。2020年民法改正で「債権譲渡禁止特約」は原則無効になりました
これまで多くの中小企業経営者を悩ませてきた「債権譲渡禁止特約」。
まずは、この特約が過去にどのような役割を果たし、今回の民法改正で具体的に何が変わったのか、その核心部分から見ていきましょう。
そもそも「債権譲渡禁止特約」とは?
「債権譲渡禁止特約」とは、その名の通り、取引の当事者間で「この契約によって発生した売掛金(債権)を、第三者に譲渡してはいけません」という約束事のことです。
取引基本契約書などに、小さな文字で記載されていることが多い条項ですね。
改正前の民法では、この特約は非常に強力な効力を持っていました。
もし特約に違反して売掛債権をファクタリング会社などに譲渡しても、その譲渡は「無効」とされてしまったのです。
これは、売掛先(債務者)からすれば、支払い相手が勝手に変わってしまう混乱を防ぐための保護規定でした。
しかし、資金調達をしたい企業側から見れば、手元にある優良な売掛債権という資産を有効活用できない、非常に高い“壁”として立ちはだかっていたのです。
何がどう変わった?改正民法466条の核心
2020年4月1日に施行された改正民法は、この状況を根底から覆しました。
新しい民法第466条では、たとえ当事者間で債権の譲渡を禁止する意思表示(譲渡禁止特約)があったとしても、その債権譲却の効力は妨げられない、と定められたのです。
簡単に言えば、契約書に「譲渡禁止」と書かれていても、その売掛債権をファクタリング会社へ譲渡すること自体は「有効」になった、ということです。
これは、資金調達の選択肢を広げたい中小企業にとって、まさに画期的な変更と言えるでしょう。
なぜ法律が変わったのか?国が中小企業の資金調達を後押し
では、なぜこのような大きな法改正が行われたのでしょうか。
その背景には、中小企業の資金調達手段を多様化させ、事業活動を円滑にしたいという国の強い意図があります。
銀行融資は依然として資金調達の王道ですが、審査に時間がかかったり、担保や保証人が必要だったりと、必ずしもすべての企業のニーズに応えられるわけではありません。
特に、成長段階にある企業や、急な資金需要が発生した企業にとって、売掛債権を迅速に資金化できるファクタリングは、事業の生命線ともなり得る重要な選択肢です。
今回の民法改正は、このファクタリング活用の障壁となっていた「債権譲渡禁止特約」の効力を弱めることで、中小企業がより柔軟に、そして迅速に資金を調達できる環境を整えることを目的としているのです。
いわば、国が「もっと積極的にファクタリングを活用して、事業を成長させてください」というメッセージを送っているとも解釈できます。
ファクタリング利用における3つの大きな変化
この法改正により、ファクタリングを取り巻く環境は大きく変わりました。
具体的に、あなたの会社にとってどのようなメリットが生まれたのか、重要な3つの変化を解説します。
【変化1】これまで諦めていた売掛債権が資金化の対象に
最も大きな変化は、これまで「譲渡禁止特約があるから」という理由でファクタリングの利用を諦めていた売掛債権が、原則としてすべて資金化の対象になったことです。
特に、取引先が大企業や官公庁である場合、契約書に譲渡禁止特約が盛り込まれているケースは少なくありません。
これらの債権は、一般的に信用力が高く、回収リスクが低い「優良債権」です。
にもかかわらず、これまでは特約の存在によって活用が阻まれていました。
今回の改正により、こうした眠っていた優良債権を、運転資金や設備投資といった未来への“燃料”に変える道が拓かれたのです。
【変化2】ファクタリング会社の選択肢が拡大
法改正は、ファクタリング会社側にも大きな影響を与えました。
以前は、譲渡禁止特約付きの債権の取り扱いには法的なリスクが伴うため、敬遠するファクタリング会社が多数派でした。
しかし、譲渡が原則有効となったことで、譲渡禁止特約付きの債権を積極的に取り扱うファクタリング会社が増加しています。
これは、利用者であるあなたにとって、より多くの選択肢の中から、自社の状況に合った最適なパートナーを選べるようになったことを意味します。
【変化3】優良債権であれば、手数料が安くなる可能性も
これは少し専門的な話になりますが、非常に重要なポイントです。
先ほども触れた通り、大企業などが発行する譲渡禁止特約付きの債権は、ファクタリング会社から見れば「貸し倒れリスクの低い、魅力的な債権」です。
取り扱うファクタリング会社が増え、競争が生まれれば、手数料にも良い影響が出る可能性があります。
実際に、一部のファクタリング会社では、譲渡禁止特約付きの優良債権に対して、通常よりも低い手数料率を提示するケースも見られます。
「特約付きだから不利になる」のではなく、むしろ「特約付きの優良債権だからこそ有利な条件を引き出せる」という逆転の発想も可能になったのです。
ただし、手放しでは喜べない!知っておくべき2つの重要リスク
ここまで、民法改正がもたらすポジティブな側面を中心にお話ししてきました。
しかし、資金繰りという重要な航海においては、追い風だけでなく、嵐の存在も知っておかなければなりません。
法律が有効と認めたからといって、何のリスクもなくなるわけではないのです。
ここからは、この法改正の恩恵を受ける上で、絶対に知っておかなければならない2つの重要なリスクについて、あえて厳しい口調でお伝えします。
この選択を誤ると、命取りになりかねません。
【リスク1】売掛先が支払いを拒否できるケースとは?
法改正によって債権譲渡は「有効」になりましたが、実は、売掛先(債務者)を保護するための規定も残されています。
これが、経営者が陥りやすい最初の罠です。
「悪意・重過失」の罠
新しい民法では、ファクタリング会社(譲受人)が、あなたの会社と売掛先との間に「譲渡禁止特約があることを知っていた(悪意)」、または「重大な過失によって知らなかった(重過失)」場合、売掛先はファクタリング会社への支払いを拒否できる、と定められています。
つまり、ファクタリング会社が特約の存在を知りながら譲渡を受けた場合、売掛先は「契約違反だから、あなた(ファクタリング会社)には支払いません。元の契約通り、A社(あなたの会社)に支払います」と主張できるのです。
こうなると、あなたはファクタリング会社から受け取った資金を返還しなければならず、資金繰りは一気に悪化します。
売掛先が取りうる対抗策「供託」
さらに、売掛先は「ファクタリング会社と元の会社、どちらに支払えばいいのか分からない」という混乱を避けるため、法務局などの機関に代金を預けてしまう「供託」という手段を取ることも可能です。
こうなると、入金サイトがさらに長引き、キャッシュフローは完全に停滞してしまいます。
大切なのは、法律上「有効」であることと、実務上「スムーズに資金化できる」ことはイコールではないと理解することです。
【リスク2】法律論だけでは済まない「取引先との信頼関係」
そして、私が最も重要だと考えているのが、この2つ目のリスクです。
数字は嘘をつきません。しかし、数字だけが会社の全てを語るわけでもありません。
ビジネスは、法律以前に、人と人との信頼関係で成り立っています。
特約違反がもたらすビジネス上のデメリット
たとえ法的に問題がなくても、長年の付き合いがある取引先との間で交わした「譲渡してはいけない」という約束を、一方的に破る行為がどう映るでしょうか。
売掛先からすれば、「契約を守れない会社だ」「経営が相当危ないのではないか」という不信感につながりかねません。
その結果、今後の取引を縮小されたり、最悪の場合、取引停止に至ったりする可能性もゼロではないのです。
目先の資金を得るために、未来の大きな利益を失うことは、決して賢明な判断とは言えません。
2社間と3社間ファクタリング、どちらを選ぶべきか
この信頼関係のリスクをどう乗り越えるか。
ここで重要になるのが、ファクタリングの方式選択です。
- 3社間ファクタリング: あなた、ファクタリング会社、そして売掛先の3社間で契約を結ぶ方法です。売掛先の承諾が必要ですが、手数料が安く、売掛先も債権譲渡の事実を把握しているため、後のトラブルが起きにくいのが特徴です。
- 2社間ファクタリング: あなたとファクタリング会社の2社間だけで契約する方法です。売掛先に通知する必要がないため、取引関係への影響を最小限に抑えられますが、その分ファクタリング会社のリスクが高まるため、手数料は割高になる傾向があります。
譲渡禁止特約がある場合、売掛先に承諾を求めても断られる可能性が高いため、現実的には「2社間ファクタリング」を選択するケースが多くなります。
しかし、その場合でも、万が一ファクタリングの利用が売掛先に知られた際のリスクは常に念頭に置いておくべきです。
元銀行員が指南する、民法改正を追い風にするための実践的アクションプラン
では、これらのリスクを踏まえた上で、私たちは具体的にどう行動すればよいのでしょうか。
大切なのは、あなたの会社にとっての“最適解”を見つけることです。
そのための具体的なステップを3つ、ご紹介します。
ステップ1:まずは自社の売掛債権をリストアップする
頭の中だけで悩んでいても、航路は開けません。
まずは、現在保有しているすべての売掛債権を一覧にしてみましょう。
エクセルなどで構いませんので、「取引先名」「債権額」「入金予定日」を書き出してみてください。
会社のキャッシュフローという“海図”を可視化することが、全ての始まりです。
ステップ2:契約書を確認し「譲渡禁止特約」の有無を把握する
次に、リストアップした売掛債権の中から、特に金額が大きいものや、入金サイトが長いものについて、取引基本契約書を確認します。
そして、「債権譲渡」や「権利の譲渡」に関する条項を探し、「譲渡禁止特約」の記載があるかどうかを明確にしましょう。
どの債権が今回の民法改正の対象となるのかを正確に把握することが重要です。
ステップ3:信頼できるファクタリング会社に相談する
ここが最も重要なステップです。
譲渡禁止特約付きの債権を扱うには、法律知識はもちろん、デリケートな実務上のノウハウが不可欠です。
手数料の安さだけで選ぶのではなく、以下の点を確認し、信頼できるパートナーを見つけてください。
- 譲渡禁止特約付き債権の取り扱い実績が豊富か
- 契約内容やリスクについて、専門用語を使わずに丁寧に説明してくれるか
- あなたの会社の状況や、売掛先との関係性まで考慮した提案をしてくれるか
複数の会社に相談し、最も親身になってくれる、信頼できる専門家をあなたの船の“航海士”として迎えることが、成功への鍵となります。
まとめ:正しい知識を武器に、資金繰りの航海を乗り切る
最後に、本日の内容を振り返ってみましょう。
- 2020年の民法改正により、「債権譲渡禁止特約」があっても債権譲渡は原則として有効になった。
- これにより、これまで活用できなかった優良な売掛債権もファクタリングの対象となり、資金調達の選択肢が大きく広がった。
- ただし、「売掛先が支払いを拒否できるケース」や「取引先との信頼関係悪化」といった重要なリスクも存在する。
- 成功の鍵は、自社の状況を正確に把握し、譲渡禁止特約に関するノウハウが豊富な、信頼できるファクタリング会社をパートナーに選ぶこと。
法律は、知っている者だけを助けてくれます。
今回の民法改正は、間違いなく、資金繰りに悩む中小企業の経営者にとって強力な“追い風”です。
しかし、その風を正しく捉え、船を進めるための羅針盤、すなわち「正しい知識」がなければ、思わぬ座礁を招くことにもなりかねません。
この記事が、あなたの会社の資金繰りという航海の、確かな羅針盤となることを心から願っています。
まずは、机の中にある取引基本契約書をもう一度開いてみることから、その“はじめの一歩”を踏み出してみませんか。